マインドフルネスとは
禅を学んだアメリカ人分子生物学者のジョン・カバット・ジンが1979年にマサチューセッツ大学で、仏教色を排し現代的にアレンジしたマインドフルネスストレス低減法(MBSR)を始めたことが端緒となっています。
マインドフルネスとは、いわば『すること』状態から『あること』状態にギアをシフトすることであるとされ、心配事にとらわれて現在の瞬間から離れ、自分の行っていることや経験していることに無自覚なまま「自動操縦状態」に陥ってしまうことへの非常に有効な対策であると考えられています。
マインドフルネスの語源は、パーリ語(仏典用語)の「サティ(sati)」です。
「サティ」の意味は
① 言葉以前の気づき
② ありのままの注意
③思い起こすこと
と主に3つあると考えられています。
意味が複数あるサティの訳語には、マインドフルネスだけではなく、「気づき(awareness)」「注意(attention)」「想起(retention)」「洞察(discernment)」など様々なものがあります。
仏教に当てはめたときマインドフルネスが八正道の「正念」と解釈されることがありますが、実際には、「正念」だけでなく、「正見」「正精進」といった他の八正道の要素と密接な関係を持ちながら、三位一体となって働くことで、マインドフルネスは成り立っていると考えられています。
また、ヨガやマインドフルネスは六波羅蜜の中の「禅定波羅蜜」に値します。
仏教がインドからシルクロードを経由して中国に伝わると、膨大な数のあらゆる仏教用語が漢字に訳されていきました。そのなかで、瞑想(サマーディ)は禅定と訳され、「禅」と表記されることもありました。この「禅定」を、坐って行うのが「坐禅」です。
科学的効果
マインドフルネスの科学的効果は以下のようなものがあげられます。
・ストレスや不安の軽減
・集中力や注意力の向上
・感情のコントロール能力の向上
・記憶力や学習能力の向上
・痛みの緩和
・免疫力の向上
・ストレスや不安の軽減
マインドフルネスには脳の扁桃体と呼ばれる部位の活動を抑制する働きがあると考えられています。扁桃体は、恐怖や不安などの感情を司る部位であるため、その活動が抑制されることで、ストレスや不安を感じにくくなると考えられています。
・集中力や注意力の向上
マインドフルネスによって前頭前野と呼ばれる部位の活動が活性化されることがわかっています。前頭前野は、注意力や集中力、意思決定などを司る部位であるため、その活動が活性化されることで、集中力や注意力が向上すると考えられています。
・感情のコントロール能力の向上
瞑想によって、今この瞬間に意識を向け、自分の感情をありのままに受け入れる練習をします。その結果、感情を客観的に捉えることができるようになり、感情に振り回されにくくなると考えられています。
2013年に発表された研究では、瞑想を行ったグループでは、そうでないグループに比べて、怒りや悲しみなどの感情をコントロールする能力が向上したことがわかりました。
また、2014年に発表された研究では、瞑想を行った群では、ストレスを受けたときの怒りの反応が抑制されることがわかりました。
※参考文献
論文名:Mindfulness-based interventions for improving emotional regulation in adults: A meta-analysis
・記憶力や学習能力の向上
瞑想によって、海馬と呼ばれる部位の活動が活性化されることがわかっています。海馬は、記憶や学習を司る領域であるため、その活動が活性化されることで、記憶力や学習能力が向上すると考えられています。
・痛みの緩和
瞑想によって、脳の島皮質と呼ばれる部位の活動が抑制されることがわかっています。島皮質は、痛みを感じる領域であるため、その活動が抑制されることで、痛みが軽減されると考えられています。
・免疫力の向上
瞑想によって、ストレスや不安が軽減されます。ストレスや不安は、免疫機能を低下させる要因であるため、ストレス不安が軽減されることで、免疫機能が向上すると考えられています。
また、瞑想によって、白血球の増加が促進されることがわかっています。白血球は、病原体から体を守る役割を担うため、白血球の増加により、免疫機能が向上すると考えられています。
マインドフルネスの種類
マインドフルネスの種類は大きく分けて以下の二つです。
・ヴィパッサナー瞑想(自己洞察瞑想)
洞察瞑想は、次々と生じている経験から特定の対象を選び出すことなく、それらの流れにありのままに気づいている状態を維持する技法です。この方法では、特定の対象を設定しないため、注意の範囲が広がり、次々と生じている呼吸や感覚や感情のすべてが気づきの対象となります。しかし、強めの感覚や感情などの妨害刺激が生じると、注意はそれらに囚われてしまいます。そのことに気づいたら、その刺激から注意を動かすのではなく、その刺激にありのままに気づいていることを試みます。それによって、妨害刺激が気づきの対象に戻り、その刺激に囚われていた注意の範囲が自然と広がっていきます。これを繰り返すことで、さまざまな感覚や感情や思考を、特定の対象とそれ以外の妨害刺激とに区分することなくありのままに気づいている状態を維持することができるようになります。
・サマタ瞑想(集中瞑想)
集中瞑想は、特定の対象に意図的に注意を集中する技法です。例えば、自然に生じている呼吸などの特定の対象を設定してそこに注意を集中します。しかし、強めの感覚や感情などの妨害刺激が生じると、注意はそれらに囚われてしまいます。そのことに気づいたら、注意を特定の対象に動かすことを試みます。それによって、注意を妨害刺激から離すことができます。これを繰り返すことで、一点に注意を集中する能力を高めることができます。しかし、特定の対象に注意を集中するだけでは、それ以外の範囲で次々と生じている経験に気づくことはできません。
それぞれの実験結果
・ヴィパッサナー瞑想(自己洞察瞑想)
交感神経の活動が増加するとともに、コルチゾール濃度が減少していました。このことは、覚醒度が高くなっているにもかかわらずストレスレベルは低くなっていたことを示しています。この結果からは、洞察瞑想は単なるリラックス状態ではなく、さまざまな感覚や感情や思考に気づけているにもかかわらずに、それらに対して反応したり抑制したりすることが低下している状態が実現している可能性がうかがえます。
・サマタ瞑想(集中瞑想)
集中瞑想時には、副交感神経の活動が増加していました。このことは、リラックス状態が高くなっていることを示しています。この結果からは、特定の対象に注意を集中することで、それ以外の感覚や感情や思考に振り回されにくくなり、リラックスできていた可能性がうかがえます。
マインドフルネスによるデメリット
うつ・不安傾向が強すぎる方がマインドフルネスを行うと、ネガティブな思考が湧き出てきた時にそれを客観的に観察できずに飲み込まれてしまい、症状が悪化する危険があります。
例えば、閉所恐怖症などのパニック障害をもつ人が瞑想をした場合、突然パニックに襲われ、神経が逆撫でされているような状態に陥ることがあるそうです。統合失調症のような症状(被害妄想、誇大妄想)、自律神経失調症のような症状(冷えやのぼせ、動悸など)ほか幻覚、幻聴などなど…これらは、禅病や魔境と呼ばれています。
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