フロー体験とは
フロー体験(没頭)は、心理学の用語で、没頭、夢中、熱中といった自我を忘れて物事に集中することをいう。この体験は人間のウェルビーイングにも深い関係があることが知られており、加えて人間の高い創造性や生産性を発揮する方法の一つでもあります。
スポーツの分野ではゾーンとも呼ばれます。
「フロー」という用語は、ポジティブ心理学の父であるミハイ・チクセントミハイ氏によって初めて作られました。ポジティブ心理学とは、「生きがいとは何か」と科学的に研究する学問です。
フロー体験の要素
チクセントミハイによると、フロー体験には、おおよそ次の8つの要素のうちの少なくても1つ、しばしば全部を含むそうです。
(1)通常は達成できる見通しのある課題と取り組んでいるとき
フロー体験の圧倒的大部分は、注意力・集中力を必要とし(目標を志向し、ルールによって条件が限定されている)、そして実現するのに能力(スキル)が必要とされるもののときに生じる
(2)自分のしていることに集中できている
自分のしている活動にあまりにも没入していて、活動がほとんど自動的になっている。そして現在行っている行為と切り離された自分自身を意識することがなくなる。
(3)活動に明瞭な目標がある
目標が事前に明確ではない創造的活動の場合は自分自身の活動への意図を明確にしなければならない。
(4)活動に直接的なフィードバックがある
他者からのフィードバックであることもあるし、自分自身で分かることもある。
(5)日々の生活の気苦労や欲求不満から意識が自由になり、深いけれど無理のない没入状態で活動している
すなわち、現在行っている活動に無関係な情報が意識の中に入って来る余地がなく、しばしば自分自身に対する深い信頼を伴う。
(6)経験は楽しく、自分の行為をコントロールしている感覚を伴う
より正確には自分自身がコントロールできているという可能性をとともにその行為を行っている。
(7)活動中は行為と一体となり、自己に対する低い評価や怯えは消失するが、フロー体験後に自己感覚はより強く現れる
活動中は、自分という存在の境界が押し広げられたという感覚を伴うことがある。
活動後は、新しい能力と新しい達成により高められた自分自身に気づく。
(8)時間の経過の感覚が変わる。
長くなったり、短くなったり。
フロー体験の脳科学
フロー現象は複雑な心理的現象であることもあり、未だ詳しいことは良く分かっておりません。その中で3つの仮説を紹介します。
一過性前頭葉機能低下仮説
フロー体験では、前頭葉の機能が一時的に低下するという仮説です。
自己意識に深く関係する内側前頭前野はフロー体験で活動が低下することが明らかになっています。しかし認知機能に関係する外側前頭前野は、フロー体験中であっても課題の種類によっては活動が高くなったり低くなったりと一定していません。
このことからフロー体験を前頭葉の活動低下と単純に関連付けるのは難しいのではないかとも論じられてます。
フロー体験の同期理論
フロー体験をしているときには脳の中の2つのネットワークが同調しているという理論です。一つは前頭頭頂ネットワークと呼ばれるもので、作業をテキパキこなす時に働くものです。もう一つは報酬系で、これはやる気を出して頭の回転を上げるようなものです。この2つのネットワークが同調することで、フロー体験特有の優れたパフォーマンスや喜びが生じるのではないかと考えられています。
フロー状態の内部モデル仮説
小脳と大脳基底核がフロー体験に大きく関係しているのではないかというものです。小脳には運動に関わる様々なパターンが蓄えられています。このような運動パターンは内部モデルと呼ばれています。「昔とった杵柄」という言葉があるように、年を取って腰が曲がっても、杵を与えると不思議に餅つきができたりすることがあります。これはおじいさんおばあさんの小脳に餅のつき方が内部モデルとして蓄えられているからです。
フロー体験と瞑想
ポジティブ心理学者のクセントミハイ氏は
被験者の多くはフロー状態を川の流れに身を任せているような感じだと表現しました。この「楽」な感覚や「精神的な無重力」の感覚は、多くの瞑想法において重要な部分です。
瞑想を始めるときは、心をクリアにしたり、思考が空に浮かぶ雲のように流れる青空をイメージすることはよくあります。そうしてリラックスした状態で瞑想を行うことが、瞑想におけるマインドフルなフロー状態です。
マインドフルネスとフロー体験は注意を集中させ、今という瞬間にとどまっている点が非常によく似ていることを、チクセントミハイは指摘しています。マインドフルネスで得られる認知の柔軟性が高いほどフロー体験が得られやすいとも言われています。
フロー体験でも瞑想中でも脳波でα波とθ波の増加が見られることも分かっています。
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